厳しい状況下で自身とチームのモチベーションを維持する:マネージャーのためのレジリエンス実践ガイド
はじめに
ビジネスの世界は常に変化と不確実性に満ちています。特にマネージャーは、市場の変動、業績目標へのプレッシャー、組織改編、部下育成の難しさなど、様々な厳しい状況に日々直面しています。このような環境下では、マネージャー自身のモチベーション維持はもちろんのこと、チーム全体の士気を高め、生産性を維持することが極めて重要になります。
しかし、困難が続くと、自身の心も疲弊し、チームにポジティブな影響を与えることが難しくなることがあります。ここで鍵となるのが「レジリエンス」です。レジリエンスとは、逆境や困難から立ち直る力、精神的な回復力や適応力と定義されます。単に元に戻るだけでなく、困難を経験することでさらに成長する力も含まれます。
本稿では、厳しいビジネス状況下において、マネージャーが自身のモチベーションを維持し、同時にチームのモチベーションを高めるために、どのようにレジリエンスを発揮し、強化していくべきかについて、具体的な実践方法を解説します。
厳しい状況がマネージャーとチームのモチベーションに与える影響
経済状況の悪化、競合の台頭、予期せぬトラブルなど、厳しい状況は多岐にわたります。このような状況は、マネージャー自身とチームメンバーのモチベーションに深刻な影響を与え得ます。
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マネージャー自身への影響:
- 達成感の低下や喪失
- 将来への不安や無力感
- 過度な責任感による精神的な疲弊
- 自己肯定感の低下
- バーンアウト(燃え尽き症候群)のリスク増加
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チームへの影響:
- 士気の低下、ネガティブな雰囲気の蔓延
- チームワークの悪化、コミュニケーションの停滞
- 生産性やパフォーマンスの低下
- 離職率の上昇
- 新しい挑戦への意欲低下
こうした負のスパイラルに陥らないためにも、マネージャーは意識的にレジリエンスを高め、状況を乗り越えるためのアプローチを講じる必要があります。
マネージャー自身のモチベーション維持のためのレジリエンス実践法
まず、リーダーであるマネージャー自身が、厳しい状況下でモチベーションを維持し、心の安定を保つことが何よりも重要です。自身のレジリエンスを高めるための実践法をいくつかご紹介します。
1. 現状と感情を正確に把握する(セルフアウェアネス)
厳しい状況に直面したとき、現実を直視せず感情を抑圧することは、長期的に見てレジリエンスを低下させます。まずは、何が厳しい状況なのか、それが自分にどのような感情(不安、怒り、落胆など)をもたらしているのかを正直に認識することが第一歩です。
- 実践例:
- 日々の終わりに、その日あった困難な出来事と、それに対する自分の感情を簡単にメモする時間を設けます。
- 信頼できる同僚やメンターに状況を話し、客観的な視点や共感を得ます。
2. 変えられないものを受け入れ、変えられるものに集中する
状況の全てをコントロールすることは不可能です。特にマクロ経済や会社の大きな方針など、個人ではどうすることもできない変化もあります。レジリエンスの高い人は、変えられない事実を受け入れ、エネルギーを変えられる側面に集中させます。
- 実践例:
- 厳しい市場環境を受け入れつつ、その中でチームとしてできる新しい販売戦略の立案に注力します。
- 組織改編による担当変更があった場合、過去に固執せず、新しい担当領域での目標設定と具体的な行動計画策定に集中します。
3. 小さな成功体験を積み重ねる
大きな問題に圧倒されそうなときでも、小さなタスクを完了させたり、わずかな進歩を遂げたりすることは、達成感と自己効力感(目標を達成できるという自信)を高めます。これはモチベーション維持に直結します。
- 実践例:
- 長期的な目標から、数日または一週間で達成可能な小さなサブゴールを設定します。
- 目標達成リストを作成し、完了したらチェックマークをつけることで、目に見える形で進捗を確認します。
4. 休息と自己ケアの重要性
心身の健康はレジリエンスの土台です。十分な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動は、ストレス耐性を高め、困難に立ち向かうエネルギーを養います。多忙な中でも、意識的に休息や趣味、リラクゼーションの時間を取り入れることが不可欠です。
- 実践例:
- 週に数回、ウォーキングやストレッチなど軽い運動を取り入れます。
- 仕事終わりに好きな音楽を聴く、読書をするなど、リラックスできる習慣を持ちます。
- 有給休暇を取得し、心身のリフレッシュを図ります。
5. サポートシステムの活用
一人で抱え込まず、周囲のサポートを求めることは決して弱さではありません。信頼できる同僚、友人、家族、メンターに話を聞いてもらったり、アドバイスを求めたりすることで、精神的な負担を軽減し、新たな視点を得ることができます。
- 実践例:
- 社内のメンター制度を活用します。
- 定期的に、悩みを共有できる社外のビジネスパーソンとの交流を持ちます。
チームのモチベーション維持のためのレジリエンス実践法
マネージャー自身のレジリエンスが高いだけでは不十分です。チーム全体のレジリエンスを高め、厳しい状況でもメンバーが前向きに取り組める環境を作ることが重要です。
1. オープンで正直なコミュニケーション
不確実な状況下では、情報の不足や憶測が不安を増大させます。可能な範囲で状況をオープンかつ正直に共有することで、チームは現状を正しく理解し、対応策を共に考える姿勢を持つことができます。ただし、過度にネガティブな情報開示は避け、建設的なトーンを保つ配慮が必要です。
- 実践例:
- チームミーティングで、現状の課題と、会社やチームとして取り組むべき方向性について説明します。
- 不明な点や答えられないことについては、「現時点では未定だが、情報が入り次第共有する」と正直に伝えます。
2. 貢献を認め、感謝を伝える
厳しい状況が続くと、成果が出にくいことからメンバーの努力が見過ごされがちです。小さな貢献でも積極的に認め、感謝の言葉を伝えることで、メンバーは自身の仕事が価値あるものだと感じ、モチベーションを維持することができます。
- 実践例:
- チーム全体や個別のメンバーに対して、具体的な行動や成果を挙げて称賛します。
- 定期的に1on1ミーティングを実施し、メンバーの努力や成長に焦点を当てたフィードバックを行います。
3. 小さな目標設定と達成の促進
大きな目標が遠のいて見えるとき、チームは無力感を感じやすくなります。短期で達成可能な小さな目標を設定し、その達成を積み重ねることで、チームは成功体験を共有し、勢いを取り戻すことができます。
- 実践例:
- 四半期目標だけでなく、月間や週間の目標を設定し、達成度をチームで共有します。
- 目標達成時には、簡単な打ち上げや成功事例の共有会などを開催し、ポジティブな雰囲気を醸成します。
4. チーム内の心理的安全性を高める
厳しい状況下では、メンバーは失敗を恐れて新しい試みを避けたり、意見表明をためらったりしがちです。心理的安全性が高いチームでは、メンバーは安心してリスクを取り、自由に意見を述べることができます。これにより、問題解決能力や適応力が高まります。
- 実践例:
- メンバーの意見を批判せず、まずは傾聴する姿勢を徹底します。
- 失敗を非難するのではなく、そこから何を学べるかに焦点を当てた振り返りを行います。
- 「分からないことを聞いても大丈夫」「違う意見を言っても大丈夫」というメッセージを常に発信します。
5. チーム全体の目標と個人の貢献を結びつける
厳しい状況下では、個々の業務が全体の目標にどう貢献しているのかが見えにくくなることがあります。チームの目標と各メンバーの役割、貢献を明確に結びつけることで、メンバーは自身の仕事の意義を感じ、モチベーションを維持しやすくなります。
- 実践例:
- チーム目標を説明する際に、各メンバーの担当業務がその達成にどのように繋がるのかを具体的に説明します。
- 定期的な進捗報告会で、個々の活動が全体の進捗にどう影響しているかを共有します。
レジリエンスをチーム文化として醸成する
上記の実践を継続することで、レジリエンスは個々の能力だけでなく、チーム全体の文化として根付いていきます。困難に強いチームは、予期せぬ事態にも柔軟に対応し、成長の機会として捉えることができるようになります。マネージャーは、チーム自身がレジリエンスを高めるための環境整備に努めることが重要です。
まとめ
厳しいビジネス状況下でマネージャーが自身とチームのモチベーションを維持するには、レジリエンスの力が不可欠です。レジリエンスは先天的なものではなく、意識的な取り組みによって鍛えることができます。
まずはマネージャー自身が、現状認識、思考の転換、自己ケア、サポート活用などを通じて自身のレジリエンスを高めることが基盤となります。その上で、オープンなコミュニケーション、承認、小さな成功体験、心理的安全性、貢献意識の明確化などを通じて、チーム全体のレジリエンスを育んでいきます。
困難な時期こそ、リーダーであるマネージャーのレジリエンスと、それを基盤としたチームへの働きかけが真価を発揮します。ご紹介した実践法を日々のマネジメントに取り入れ、厳しい状況を乗り越え、さらなる成長の機会に変えていくことを目指してください。