組織構造・戦略変更を乗り切る:マネージャーのためのレジリエンス実践論
組織における構造変更や戦略変更は、ビジネス成長のために不可欠なプロセスである一方、現場のマネージャーにとっては大きなプレッシャーと不確実性をもたらします。既存のオペレーション変更、新しいルールの導入、役割の再定義、人員配置の変動など、様々な要素が複雑に絡み合い、自身のメンタルだけでなく、チーム全体の士気や安定性にも影響を及ぼす可能性があります。
このような変革期において、マネージャーに求められるのは、変化の波に適切に対応し、自身とチームの活力を維持・向上させる「レジリエンス」です。本稿では、組織の構造・戦略変更という具体的な困難な状況に焦点を当て、マネージャーがいかにレジリエンスを発揮し、乗り越えていくかの実践的なアプローチを解説します。
変革期がマネージャーにもたらす心理的負荷
大規模な組織変更や戦略転換は、マネージャーに対して以下のような心理的負荷を与えることがあります。
- 不確実性: 自身の立場、チームの将来、業務の進め方など、先行きが見通せないことによる不安。
- 情報不足: 上層部の意図や変更の詳細が十分に伝わらないことによる混乱やフラストレーション。
- コントロール感の喪失: 自身やチームの状況をコントロールできない感覚。
- 責任とプレッシャー: 変化の波を乗り越え、チームを率いることへの重圧。部下からの質問や不安への対応。
- 価値観の衝突: 従来のやり方や価値観が否定されることへの抵抗感や喪失感。
- 過重労働: 変更への対応、新しい業務の習得、部下への説明などで業務量が増加する可能性。
これらの負荷は、マネージャー自身のストレスを高め、パフォーマンスの低下やエンゲージメントの低下を招きかねません。
マネージャー自身のレジリエンスを高める
まず、マネージャー自身が心身の健康を保ち、変化に適切に対応できる状態であることが不可欠です。自己のレジリエンスを強化するための具体的な実践論を以下に示します。
1. 変化を「機会」として捉える視点を持つ
認知の仕方を変えることは、レジリエンスの核となります。変化を単なる脅威や困難としてではなく、「新しい知識やスキルを習得する機会」「組織としてより強固になるためのプロセス」「自身のリーダーシップを発揮する試金石」といったポジティブな側面も含むものとして捉え直す努力をします。これは「認知の再構成」とも呼ばれ、状況に対する自身の感情的な反応を調整するのに役立ちます。
2. 感情を認識し、適切に対処する
不安、怒り、混乱といったネガティブな感情を無視するのではなく、まずは自分の中にそのような感情があることを認識します。その上で、信頼できる同僚やメンターに相談する、ジャーナリング(思考や感情を書き出すこと)を行う、リラクゼーション技法(深呼吸、瞑想など)を取り入れるといった方法で、感情を健康的に処理します。感情的な安定は、冷静な判断や部下への適切な対応に繋がります。
3. サポートシステムを活用する
一人で抱え込まず、社内外のサポートシステムを積極的に活用します。上司への進捗報告と同時に懸念事項を相談する、同僚マネージャーと情報交換や悩み相談を行う、友人や家族との時間を大切にするなど、精神的な支えとなる関係性を維持・強化します。必要であれば、専門家(EAPなど)のサポートも検討します。
4. 自己効力感を維持・向上させる
自己効力感とは、「自分は与えられた課題を遂行できる」という感覚です。変革期にはコントロール感の喪失から自己効力感が低下しやすいですが、意識的に小さな目標を設定し、達成する経験を積み重ねることで維持・向上を図ります。例えば、「〇月〇日までに、新しいシステムに関する部下の疑問点を3つ解消する」「今週中に、変更の背景について自分の言葉で説明する練習をする」など、具体的で達成可能な行動目標を設定します。
5. 休息と自己ケアを優先する
心身ともに健康な状態を維持するためには、適切な休息と自己ケアが不可欠です。十分な睡眠時間を確保し、栄養バランスの取れた食事を心がけ、定期的な運動を行います。趣味やリラクゼーションなど、仕事から離れてリフレッシュできる時間を意識的に設けることが、長期的なレジリエンスを支えます。
チームのレジリエンスを育むマネージャーの役割
マネージャー自身のレジリエンス強化と並行して、チーム全体のレジリエンスを高めることも重要な役割です。変革期にチームが一体となって困難を乗り越えるために、以下の点を意識します。
1. 変化の目的と背景を丁寧に説明する
なぜこの変更が必要なのか、組織がどこに向かおうとしているのかを、部下に対して繰り返し、そして彼らが理解しやすい言葉で説明します。不確実性を完全に払拭することは難しいですが、目的を共有することで、部下は変化の必要性を納得しやすくなり、混乱や抵抗感を軽減できます。一方的な通達ではなく、対話を通じて理解を深める時間を設けることが重要です。
2. オープンなコミュニケーションと対話を促進する
チームメンバーが抱える不安、懸念、疑問を安心して話せる心理的安全性の高い環境を作ります。定期的なチームミーティングや1on1を通じて、メンバー一人ひとりの声に耳を傾け、共感的な姿勢で対応します。全ての疑問に答えられなくても、「それは確認中です」「あなたの懸念は理解しました」と伝えるだけでも、メンバーの安心感に繋がります。
3. 小さな成功を共有し、ポジティブな面に焦点を当てる
変化のプロセスにおける小さな成功(例: 新しいツールを使いこなせるようになった、想定より早く業務フローが安定したなど)を見つけ出し、チーム全体で共有し賞賛します。困難な状況下でも前向きな側面に焦点を当てることで、チームの士気を維持し、「自分たちは変化に対応できる」というcollective efficacy(集団的効力感)を高めることができます。
4. メンバー間の相互サポートを促す
変革期はメンバー間の連携が特に重要になります。特定のスキルを持つメンバーが他のメンバーをサポートする、情報共有を活発に行う、困難なタスクを協力して乗り越えるなど、チーム内の相互支援を奨励します。マネージャーが率先して助け合いの姿勢を示すことも効果的です。
5. 柔軟性と適応力をチームに根付かせる
変化への対応力を高めるためには、計画通りに進まないことを前提とした柔軟な思考や、状況に応じてやり方を変えていく適応力が必要です。「完璧を目指すより、まずはやってみる」「失敗から学び、改善していく」といったマインドセットをチームに醸成します。これは、単なる乗り切り術としてではなく、将来的な組織文化として重要になります。
まとめ:レジリエンスは継続的な強化が必要
組織構造や戦略の変更といった大きな波を乗り越えるためには、マネージャー自身の強固なレジリエンスと、チーム全体のレジリエンスを高めるリーダーシップが不可欠です。変化の渦中にある時は特に、自身のメンタルケアを怠らず、チームとの対話を密にし、具体的な行動を通じて小さな成功体験を積み重ねていくことが重要です。
レジリエンスは一度構築すれば終わりではなく、継続的に鍛え、維持していくべき能力です。今回ご紹介した実践論が、変革期という困難な状況を乗り越え、マネージャーとして、そしてチームとしてさらに成長していくための一助となれば幸いです。